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ぼくらの行進曲(小笠原豊樹 訳)

マヤコフスキー

  ぼくらの行進曲(小笠原豊樹 訳)

 マヤコフスキー(1893―1930)

広場に鳴らせ、暴動の足音を!
聳えろ、誇らしい頭の山脈!
ぼくらは二度目のノアの洪水で
全宇宙の町々を洗い浄めよう。

日常の牛は斑だ。
歳月の馬車は緩慢だ。
ぼくらの神は駈け足だ。
ぼくらの心は太鼓だ。

ぼくらの黄金より魅惑的なものがあるか。
弾丸の蜂どもにぼくらが刺されてたまるか。
ぼくらの武器はぼくらの唄だ。
ぼくらの黄金は鳴り響く声だ。

牧場よ、緑に横たわれ、
日常の底を敷きつめろ。
虹よ、軛をかけろ、
早飛びの歳月の馬どもに。

見えるか、天やつ、星に飽きている!
あいつ抜きでぼくらの唄を編もう。
おおい、大熊座! 要求しろ、
生きたままぼくらを天に迎えろと。

喜びを飲め! 歌え!
春が血管に一杯だ。
心よ、太鼓を叩け!
ぼくらの胸はティンパニーの銅だ。

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少年時代の終わり(和田忠彦 訳)

モンターレ

  少年時代の終わり(和田忠彦 訳)

 モンターレ(1896―1981)

 道は未知の貌をした不安な歴史に通じていた。
けれど その貌を養う韻律は
ぼくらから逃げ去った。
あらゆる瞬間が燃え尽きた
未来の一瞬に、跡形もなく。
生きることは、ときには新しすぎる
運命だった。だから心が高鳴った
規則などなかった。
定められた溝など、
悲しみと喜びを識別するための対照などなかった。
けれど きみはまた小径を引き返し
海辺の家へと
ぼくらの驚きに満ちた子供のころの、今では閉ざされた隠れ家へと
心のどんな動きにもすぐに応えた
外面の一致。名前をまとったものたち。
ぼくらの世界には中心があった。

ぼくらは汚れのない時代にいた
雲が暗号でも略号でもなく
旅を見守る美しい姉妹であるような。
自然のなかに恍惚とした凝視がある
自然は夢見ない驚異だ
曖昧なぼくらの心に追いつこうとは
ぼくらは欺かれた時代にいた。

短い歳月が日のように飛び去って
華やかにむさぼる海はすべて
確信を沈めた。
海はいまでは震える御柳のぼやけた姿をしていた。
夜明は起きなければならなかった
一条の光が輝く
窓辺でひとつぶの水滴のようにぼくらに告げた
ぼくらはしっかりと駈けよって
庭の砂利の上で きしむ
門を開いた。
ぼくらにははっきりわかった、偽りだと。
重苦しい雲が海面で
ぼくらを沸き立たせている 濁った海のうえに
のさばっていた。
嵐の予感が
大気にはあった。
そんな予感も関りがない、
しるしをつけた中庭を
まるで世界のように探検する
子供の領域には!
ぼくらにも探るときがやってきていた。
少年時代はまるく円のなかに消えたのだ。

ああ 葦のしげみの中で人喰い人種ごっこ
棕櫚のひげ、破れたブリキ缶集め、楽しかった。
美しい時代は飛び去った、海の
線のうえを、帆を張りつめてゆく小舟のように。
たしかにぼくらは押し黙ってみつめていた。ささやかな 激しい変化を期待して。
やがて偽りの静けさのなかで
えぐられた水のうえに
風が起きるはずだった

チョルブの帰還(加藤光也 訳)

ナボコフ

  チョルブの帰還(加藤光也 訳)

   ナボコフ(1899―1977)

 彼は新婚旅行中に彼らが二人で訪れた場所を、すべて逆に辿っていった。二人が冬を越したスイスでは、いま林檎の木が最後の花をつけていたけれども、ホテルしか眼に入らなかった。前年の秋、二人がハイキングをした黒い森では、春の肌寒ささえ記憶の邪魔にはらならかった。彼はいまや、ちょうど南国の浜辺で、妻が最後の夕べの散策のおりにたまたま彼に見せた、細くて白い縞のまっすぐに入った、あの丸くて黒い独特の小石をもう一度見つけようとしたのと同じように、彼女の感嘆符の思い出が残る道端のあらゆる事物を捜し出そうと懸命だった。崖の特異な輪郭、銀灰色の鱗が層をなしていた小屋の屋根、白い急流の上の黒いモミの木と、そこにかかる人道橋。それからいわば未来を予示していたと考えたくもなるような、霧の滴が数珠つなぎになった二本の電信線のあいだにかかる。
放射状の蜘蛛の巣の網のようなもの。あの時には妻が一緒だった。彼女の小さなブーツは忙しく歩をきざみ、彼女の両手は決して止まることなく動きつづけた――藪から葉っぱを引抜こうとしたり、通りすがりに岩壁をなでたりしていた――休むことを知らぬ、あの快活で楽しげな両手。彼は黒っぽいそばかすだらけの小さな妻の顔や、大きな瞳を思い浮かべた。薄緑色のその瞳は、海の波に洗われてなめらかになった、ガラスのかけらのような色をしていた。もし、二人が一緒に眼にとめた小さな品々をすべて集めることができれば――もし、そのようにしてごく近い過去を再創造できれば――妻のイメージは不滅のものとなり、永遠に彼女のかわりとなるだろう、と彼は思った。
 
樫の木と栗の木が歩道にそって並び、それらの黒い樹皮は腐敗病の緑のビロードに覆われていた。ときおり葉がちぎれて、包装紙の切れはしのように、道を横切って飛んで行った。彼女は子供用のシャベルで、飛んでいく葉を捕えようとした。シャベルは、道が工事中の場所で、ピンク色のレンガの山の近くに見つけたものだった。少し離れたところで、労働者の箱型トラックの円筒から青灰色の煙が流れ、ななめに漂って木の枝のあいだに消えていった。――休憩中の労働者は片手を腰にあて、かかげた手に小さなシャベルを持った若い婦人が、枯葉のように身軽に舞う姿をじっと見つめていた。彼女は跳びはね、笑い声をあげた。チョルブは少し背を丸め、彼女の後から歩いていった。――幸福とはまさしくこのような匂い、枯葉のような匂いがするものだ、と思われたものだった。

 万里の長城 (池内紀 訳)

カフカ

   万里の長城 (池内紀 訳)

  カフカ(1883―1924)

 私見によれば、君主制については民衆こそ問うべきなのだ。民衆こそ君主制を支えている究極の柱であるからだ。この点、私は自分の古里を引き合いに出すしかないのだが、田畑の神々と、四季おりおりに取り行われる祭礼を除いて、誰もがひたすら皇帝のことを思い続けていた。とはいえ現に居ます皇帝のことではない。あるいはこう言うべきだろうか、現に居ます皇帝を知るか、その皇帝にまつわる何ほどかを知っていさえすれば、必ずや現に居ます皇帝を思っていたにちがいない、と。

 われわれの国土はかくも大きいのだ。どれほど壮大なお伽噺もこの国の大きさにはかなはない。大空でさえ、われらが国土をつつみかねている――一方、北京は単なる一点である。皇帝の居城ときたらシミのように小さい。皇帝の威光はあまねく世界にたなびいているが、うつし身の皇帝はわれわれと同じ一人の人間にすぎず、われわれと同様に長椅子に寝そべっている。それがいかに華麗な椅子であれ、長さ、大きさなどしれたものだ。われわれと同じように時には伸びをし、疲れれば手を口に添えてあくびをすることもあるだろう――しかし、どうすればその種のことを知りうるのだ。何万里もはなれた南方であって、少し行けばチベットの山系に踏みまようところなのだ。

 つまりがこのように民衆は絶望と希望のいりまじったまなざしをもって皇帝を見つめている。今がどの皇帝の御世か知らず、名前すら怪しい。歴代の皇帝の名前は学校で習ったが、制度そのものがいたって曖昧であるからには優等生でもあやふやにならずにはいないのである。村ではいまだ、とっくの昔に死んだはずの皇帝が健在であり、歌に伝わっているだけの皇帝が、つい先だって詔勅を発して神官が祭壇の前で朗読したばかりである。

 とすると、われわれにはしょせんは皇帝などいないのだと結論づけても、あながちまちがってはいないだろう。とまれ私は言っておかねばならない。おそらく南方人のわれわれほど皇帝に忠実な民衆もいないのだ。しかし、その忠誠はさして皇帝に役立たない。村はずれの小さな石柱の上に聖竜像がのっていて、はるか昔から燃えるような恭順の吐息を帝都に吐きつづけている。だが、帝都北京それ自体が村人にとっては彼岸よりももっと見知らないところである。

海辺の墓地 ヴァレリー(1871―1945)

ヴアレリー


   海辺の墓地

  ヴァレリー(1871―1945)

美しい空、真実の空よ、見よ 変ってゆく俺を。
あれほどの驕慢の後、あれほどの不思議な、然し
力の溢れた放心の懶惰の後に、
この光り輝く空間に わが身を委ね、
死者の住む家々の上を わが影が横切って、弱々しいその足どりに 影は俺を順応させる。

おお おのれ孤の為、おのれ独りで、おのれの中に、
心のかたはらに、詩の生れる源泉に、
虚無と 純粋な到来との間に、俺は
内在するわが大きさの反響を 待っている、絶えず未来の空洞を 魂の中で高鳴らせる、苦渋に満ちた、陰鬱な、響きの高い貯水槽を。

深い地底の父祖たちよ、住む者も居ない頭よ、
土を掬って盛り掛けた重みの下に、
土と化し、わが歩調も識別し得ない人々よ、
本当に蝕む者、墓虫でないとは証明し切れない蛆虫は、
墓場の石の下に眠る父祖たちの為ではなく、生命を啖って生きて、俺を離れることがない。

いな、いな…… 立ち上がれ。継起する時代の中に。
わが肉体よ、打ち毀せ、この思考する形態を。
わが胸よ、嚥み干せ、風の誕生を。
清新の大気は、海から 湧きあがり、
わが魂を俺に返還する…… おお 塩辛い風の力よ。
さあ 水に駆け込んで 生々として踊り出そう。

そうだ。荒れ狂う昏迷に陥りやすい大海よ、斑点の豹の毛皮よ、太陽の照射の光の
百千々に 千々に 孔を穿つた外套よ、
絶対の水の蛟龍よ、紺碧の己の肉に酔い癡れて、
静寂にも似た 擾乱のさなかに
燦めく蛇尾を 噛んでいる、海よ、今

風 吹き起る…… 生きねばならぬ。一面に
吹き立つ息吹は 本を開き また本を閉じ、
浪は 粉々になって 巌から迸り出る。
飛べ 飛べ 目の眩いた本の頁よ。
打ち砕け、浪よ。欣び躍る水で 打ち砕け、三角の帆の群の漁っていたこの静かな屋根を。

テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

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